
就労継続支援B型の在宅支援で本当に重要なことは何?
2026年10月25日 15:18
就労継続支援B型事業所を探している方の中には、さまざまな事情から通所が難しく、在宅での利用を希望する方がいます。
体調に波がある方、人間関係に不安を感じる方、外出や公共交通機関の利用が負担になる方など、その理由は一人ひとり異なります。
近年では、パソコンやタブレットを使ったデザイン、イラスト制作、データ入力など、在宅で取り組める仕事を紹介するB型事業所も見られるようになりました。
しかし、私は長年の就労支援事業の経験から、在宅支援について一つ疑問に感じていることがあります。
「在宅で作業ができる」というだけで、本当に就労支援になっているのでしょうか。
大切なのは、単に自宅で過ごしながら作業できる環境を用意することではありません。
在宅であっても、自分に合った仕事に取り組み、技術や経験を積み重ね、工賃を得られる仕組みをつくることだと考えています。
今回は、京都市の就労継続支援B型事業所「デジタル工房幸福堂」が実践してきた在宅支援を例に、そのあり方について考えてみたいと思います。
1.在宅で利用できることと、仕事があることは違う
在宅支援を始めるために、パソコンやタブレットを用意したり、オンラインで連絡できる環境を整えたりすることは、それほど難しいことではありません。
しかし、環境が整ったからといって、利用者に継続的な仕事を提供できるとは限りません。
例えば、毎日イラストを描いたり、デザインソフトの操作を練習したりすることも、技術を身につけるためには意味があります。
ただし、練習することと、お客様から依頼された仕事をすることは別です。
お客様から注文を受け、希望に沿ったものを制作し、納品する。
その商品やサービスに対して代金が支払われる。
こうした経験が、仕事に対する責任感や自信、技術の向上にもつながります。
もちろん、すべての利用者が最初から実際の受注業務に取り組めるわけではありません。
本人の体調や経験に応じて、基礎的な訓練から始めることも必要です。
しかし、事業所としては、その先にどのような仕事があるのかを考えておくべきではないでしょうか。
在宅で作業する場所を確保するだけでなく、在宅でも仕事を続けられる環境をつくること。
これが、在宅支援の重要な課題だと考えています。
2.利用者が増えても、仕事が増えるとは限らない
在宅利用に対応するB型事業所が増えれば、通所が難しい方にとって選択肢が広がります。
これは、とても良いことです。
しかし、事業所の経営という視点では、別の問題があります。
それは、利用者が増えることと、生産活動の売上が増えることは別だということです。
例えば、デザインの仕事を希望する利用者が10人いたとします。
事業所に十分な受注がなければ、全員に継続して仕事を提供することは難しくなります。
20人、30人と利用者が増えれば、さらに多くの仕事が必要になります。
そこで考えなければならないのが、仕事をどうやって確保するのかという問題です。
職員が営業活動を続けなければ仕事が入らない。
知り合いからの紹介がなければ受注がない。
このような状態では、安定した在宅支援を続けることが難しくなります。
在宅支援を充実させるためには、利用者への支援体制だけでなく、継続的に仕事の依頼が入る事業の仕組みが必要なのです。
3.幸福堂が在宅デザインの仕事を確保できる理由
デジタル工房幸福堂では、在宅でデザインに取り組む利用者が約20人います。
主な仕事の一つが、オリジナルTシャツのデザイン制作です。
ここで重要なのは、デザインの仕事を外部から探してくるだけではなく、幸福堂グループが自らオリジナルTシャツ事業を展開していることです。
私たちは、一般のお客様に向けて、オリジナルTシャツを1枚から制作するサービスを提供しています。
初めてオリジナルTシャツを注文する方の中には、専門的なデザインソフトを使えない方や、印刷用のデータを用意できない方も少なくありません。
そこで幸福堂では、
「LINEで画像を送るだけ。デザイン料無料で、オリジナルTシャツを1枚から制作できます」
というサービスを提供しています。
お客様にとっては、専門知識がなくても気軽に注文できることが魅力です。
そして、注文が入ることで、利用者のデザインの仕事が生まれます。
つまり、お客様の困りごとを解決することが、利用者の仕事づくりにもつながっているのです。
この仕組みをつくるためには、デザインの技術だけでなく、商品開発、価格設定、受注管理、制作体制など、さまざまな経営上の工夫が必要です。
在宅支援の充実には、福祉の専門性と同じくらい、事業を育てるためのビジネスの専門性も重要だと感じています。
4.在宅支援にもWEBマーケティングが必要
私が特に重要だと考えているのが、WEBマーケティングです。
就労継続支援B型事業所は、小規模な法人が限られた職員数で運営していることが少なくありません。
利用者の支援を行いながら、職員が営業活動まで担当することには限界があります。
そこで幸福堂では、ホームページ・SNS・WEB広告を活用し、営業担当者に頼らず、お客様から注文をいただく仕組みを重視しています。
ただし、ホームページを作れば、自動的に注文が入るわけではありません。
まず考えるべきなのは、どのようなお客様が、何を求めているのかということです。
オリジナルTシャツを注文したい方は、必ずしもデザインの専門知識を持っているわけではありません。
「自分でデザインを作れない」
「1枚だけ注文したい」
「できるだけ手頃な価格で作りたい」
こうしたお客様の要望に応えられる商品やサービスを考えることが重要です。
そして、その魅力をWEBで分かりやすく伝え、購入につなげていきます。
WEBマーケティングとは、単にホームページへのアクセスを増やすことではありません。お客様が自分から購入したくなる仕組みをつくることです。
継続的に注文が入る仕組みができれば、それが在宅利用者の仕事の確保にもつながります。
5.在宅だからこそ、丁寧な支援が必要
ここまで仕事づくりの重要性について説明しましたが、在宅支援では、もちろん福祉的な支援も欠かせません。
在宅では、職員が利用者の様子を直接確認できる機会が少なくなります。
そのため、体調の変化や精神的な負担、作業上の困りごとに気づきにくくなることがあります。
仕事の進捗だけを確認するのではなく、本人の状態や希望を丁寧に把握することが大切です。
また、在宅だからといって、すべての作業を一人で抱え込んでもらう必要はありません。
分からないことを相談できる。
難しい作業は職員と一緒に考えられる。
体調が悪いときは無理をせず、働き方を調整できる。
こうした支援体制があってこそ、安心して仕事に取り組めます。
厚生労働省も、在宅での就労支援について、作業・訓練内容の確保や定期的な連絡・評価、緊急時への対応などを求めています。
在宅でのサービス利用には、市町村が支援の効果を認めることなどの要件もあります。
在宅支援とは、利用者を自宅で一人にしておくことではありません。
離れていても必要な支援が届き、安心して仕事に取り組める環境を整えることが大切なのです。
6.在宅で働くことが、次の可能性につながる
在宅支援は、通所が難しい方に働く機会を提供するだけでなく、将来の選択肢を広げる可能性もあります。
例えば、自宅でデザインの仕事を続けることで、少しずつ技術や自信が身につく方もいるでしょう。
最初は在宅での利用から始め、体調が安定してきたら通所にも挑戦する。
あるいは、在宅のまま技術を高め、より専門的な仕事に取り組む。
一般就労や在宅での仕事を目指す方もいるかもしれません。
大切なのは、すべての利用者に同じ働き方を求めないことです。
在宅で働き続けることが、その方にとって最も適した選択になる場合もあります。
また、本人が希望するなら、少しずつ新しいことに挑戦できる環境も必要です。
在宅支援の目的は、単に自宅で作業を続けてもらうことではなく、その人らしい働き方と可能性を広げることだと考えています。
7.在宅支援の充実には、事業所の経営力が欠かせない
就労継続支援B型事業所には、福祉支援と生産活動という2つの役割があります。
在宅支援においても、この2つを切り離して考えることはできません。
利用者の障害特性や体調に合わせた支援を行うこと。
そして、その方が取り組める仕事を継続的に確保すること。
どちらか一方だけでは、十分とはいえません。
特に工賃向上を目指すのであれば、単に作業量を増やすだけでなく、お客様に選ばれる商品やサービスをつくり、生産活動の売上を伸ばしていく必要があります。
そのためには、どの市場に参入するのか、自社の経営資源をどう活かすのか、どのように集客するのかを考えることが重要です。
幸福堂では、これまでオリジナルTシャツ事業を通じて、在宅デザインの仕事づくりに取り組んできました。
もちろん、すべてが最初から順調だったわけではありません。
お客様のニーズを考え、サービス内容を見直し、WEBでの集客方法を改善しながら、仕事を生み出す仕組みを育ててきました。
こうした経験から感じるのは、在宅支援の質を高めるためには、利用者を支える福祉の力と、仕事を生み出す経営の力の両方が必要だということです。
まとめ|在宅で働けることより、在宅でも仕事を続けられること
就労継続支援B型の在宅支援で本当に重要なことは何でしょうか。
私は、利用者一人ひとりに合った支援を行いながら、継続的に仕事と工賃を生み出せる環境をつくることだと考えています。
パソコンやタブレットを用意すること。
オンラインで作業を指示すること。
自宅で取り組める課題を提供すること。
これらも必要ですが、それだけで十分とはいえません。
利用者が自分に合った仕事に取り組み、技術や経験を積み重ねる。
その仕事がお客様に評価され、売上が生まれる。
そして、売上が利用者の工賃や新しい仕事につながっていく。
この循環をつくることが大切です。
在宅支援を充実させるためには、福祉支援の仕組みだけでなく、仕事が継続的に入ってくるビジネスの仕組みも必要です。
これからも幸福堂では、在宅という働き方の可能性を広げながら、利用者が技術を活かして収入を得られる事業づくりに取り組んでいきたいと考えています。
デジタル工房幸福堂の在宅支援について
京都市の就労継続支援B型事業所「デジタル工房幸福堂」では、デザイン・イラスト・オリジナルTシャツ制作など、実際のお客様からの注文につながる仕事に取り組んでいます。
在宅での利用にも対応し、一人ひとりの体調や希望に合わせた働き方を支援しています。
仕事内容や利用について詳しく知りたい方は、公式ホームページをご覧ください。