
就労継続支援B型の仕事づくり|利用者が集まる事業所は、生産活動をどう選んでいるのか?
2026年10月25日 17:47
就労継続支援B型事業所の経営者にとって、利用者募集と工賃向上は大きな課題ではないでしょうか。
「利用者の好きなことを仕事にしたい」
「利用者の得意なことを活かせる生産活動を始めたい」
こうした考え方は、就労支援において大切なことです。
しかし、利用者の希望をもとに新しい作業を増やしても、十分な売上が生まれず、工賃向上につながらないケースもあります。
一方で、人気がありそうな仕事を始めたものの、思ったほど利用者が集まらないこともあるでしょう。
では、B型事業所はどのような基準で生産活動を選べばよいのでしょうか。
私は、京都市で就労継続支援B型事業所「デジタル工房幸福堂」を運営する中で、新しい生産活動を検討するときに、最初に考えていることがあります。
それは、**「その仕事をやりたい利用者は、具体的にどんな人なのか?」**ということです。
今回は、幸福堂が実践してきた仕事づくりを例に、利用者が集まり、工賃向上にもつながる生産活動の選び方についてお話しします。
1.生産活動を選ぶ前に、利用者の需要を考える
新しい生産活動を考えるとき、「何をつくるか」「どんな設備を導入するか」から検討する事業所もあると思います。
もちろん、設備や作業内容の検討も必要です。
しかし、幸福堂ではその前に、もっと大切なことがあると考えています。
その仕事をやってみたいと思う利用者が、どれくらいいるのか。
そして、どのような人が、その仕事に魅力を感じるのか。
例えば、パソコンを使った作業といっても、データ入力が好きな人と、イラスト制作が好きな人では、希望する仕事内容が違います。
同じデザインの仕事でも、事業所に通所して働きたい人もいれば、自宅のパソコンを使って在宅で働きたい人もいます。
つまり、「パソコン作業ができる事業所」というだけでは、ターゲットとなる利用者が明確になりません。
大切なのは、仕事内容だけでなく、その仕事をどのような環境で、どのように働きたい人なのかまで具体的に考えることです。
2.幸福堂が想定している3つの利用者像
デジタル工房幸福堂では、生産活動を検討する際、実際にその仕事を希望する利用者の姿を具体的にイメージしています。
例えば、次のような方です。
① 自分のパソコンでPhotoshopを使い、在宅でデザインの仕事をしたい人
パソコンを持っていて、デザイン制作に興味がある。
しかし、一般企業で働くことや毎日の通勤には不安がある。
できれば自宅で、自分の技術を活かした仕事がしたい。
② 自分のタブレットを使って、在宅でイラストを描く仕事をしたい人
絵を描くことが好きで、普段からタブレットでイラストを制作している。
趣味で描くだけでなく、自分のイラストを仕事に活かしてみたい。
体調や生活環境に合わせて、在宅で働きたい。
③ マッサージの仕事で収入を得たいけれど、B型なら挑戦できるかもしれないと思っている人
美容やリラクゼーションに興味があり、人にマッサージをしてあげることが好き。
本当はセラピストとして働いてみたい。
でも、一般のサロンで働くことには不安がある。
それなら、B型事業所で研修を受けながら挑戦してみたい。
このように、ターゲットとなる利用者を具体化すると、どのような生産活動が求められているのかが見えてきます。
同時に、利用者募集で何を伝えるべきなのかも明確になります。
「誰でもできる仕事」を考えるのではなく、「この仕事をやりたい」と思う人がいる仕事を考える。
これが、幸福堂の生産活動選びの出発点です。
3.「利用者の好きなことを仕事にする」には、2つの考え方がある
ここで、少し考えていただきたいことがあります。
「利用者の好きなことを仕事にする」
同じ言葉でも、生産活動のつくり方によって、その意味は大きく変わります。
例えば、ある利用者から「イラストを描く仕事がしたい」という希望があったとします。
そこで、イラスト制作を新しい生産活動にする。
利用者の希望を尊重した取り組みですが、そのイラストを誰が購入するのか、継続的に注文が入るのかという問題が残ります。
利用者が希望するたびに新しい生産活動を増やしていけば、小規模なB型事業所では、商品開発や販売管理にも大きな負担がかかります。
一方、幸福堂では、先にオリジナルTシャツの制作事業を展開しています。
そこには、実際のお客様から注文されるデザインやプリントの仕事があります。
そのうえで、
「絵を描くことが好きな人」
「Photoshopを使ったデザインに興味がある人」
「ものづくりが好きな人」
に向けて、利用者募集を行います。
リラクゼーション事業も同じです。
先にサロンという仕事の場をつくり、美容やマッサージが好きな人、セラピストに挑戦したい人を募集しています。
どちらも利用者の好きなことを仕事にする取り組みですが、事業をつくる順番が違うのです。
もちろん、すでに利用している方の希望から新しい事業の可能性を発見することもあります。
大切なのは、利用者の希望を尊重しながらも、その仕事を継続的に提供できる事業として成立させることです。
4.利用者に人気の仕事でも、お客様がいなければ工賃は生まれない
ここまで、利用者の需要を考える重要性について説明しました。
しかし、それだけで生産活動が成功するわけではありません。
もう一つ、必ず考えなければならないことがあります。
それは、その商品やサービスを購入するお客様がいるかどうかです。
例えば、イラストを描くことが好きな利用者がたくさん集まっても、その作品を購入するお客様がいなければ、十分な売上は生まれません。
デザインやマッサージも同じです。
利用者が技術を習得しても、仕事の依頼が入らなければ、生産活動として成り立ちません。
つまり、B型事業所には2つの需要を考える必要があります。
1つ目は、利用者の需要。
その仕事をやりたい人がいるか。
2つ目は、お客様の需要。
その商品やサービスを購入したい人がいるか。
この両方が成立することが重要です。
幸福堂では、新しい生産活動を検討するときに、まず利用者が魅力を感じる仕事かどうかを考えます。
そのうえで、一般消費者の需要がある市場を選び、事業として成立する仕組みをつくります。
利用者が集まっても、お客様がいなければ工賃は増えない。お客様がいても、その仕事をやりたい利用者が集まらなければ、B型の生産活動として広げにくい。
だからこそ、2つの需要を両立させる事業選びが必要なのです。
5.幸福堂がオリジナルTシャツ事業を選んだ理由
幸福堂では、オリジナルTシャツ制作を生産活動の一つとして展開しています。
この事業を選んだ理由は、単にデザインや印刷ができるからではありません。
まず、イラストやデザイン、ものづくりが好きな利用者の需要があります。
そして、オリジナルTシャツは、一般消費者が実際にお金を払って購入する商品です。
私が注目したのは、インクジェット印刷技術の普及によって、従来のように大量注文するだけでなく、1枚からオリジナルTシャツを制作しやすくなってきたことでした。
ユニクロがオリジナルTシャツの制作サービスに取り組んでいたことも、市場の可能性を考えるきっかけの一つです。
そこで幸福堂では、1枚から手頃な価格でオリジナルTシャツを制作するサービスを展開しました。
しかし、初めて注文するお客様の多くは、デザインソフトを使えません。
そこで考えたのが、
「LINEで画像を送るだけ。デザイン料無料で、1枚からオリジナルTシャツを制作」
というサービスです。
お客様は、専門的な知識がなくても気軽に注文できます。
一方、幸福堂には、在宅でデザインに取り組む利用者が約20人います。
お客様からの注文が増えることで、利用者のデザインの仕事も増えていきます。
つまり、お客様の困りごとを解決することが、そのまま利用者の仕事づくりにつながる仕組みなのです。
これは、単に利用者に作業を用意するのとは異なる考え方です。
実際のお客様に選ばれる商品やサービスをつくることで、継続的な仕事と工賃を生み出すことを目指しています。
6.リラクゼーション事業も、利用者の需要から考えた
幸福堂グループでは、リラクゼーションサロンの運営にも取り組んでいます。
この事業についても、最初に考えたのは、どのような利用者が興味を持つ仕事なのかということです。
美容が好きな人。
人にマッサージをしてあげるのが好きな人。
セラピストの仕事に憧れている人。
しかし、一般のリラクゼーションサロンで働くことには不安を感じている人。
そうした方にとって、B型事業所で技術を学びながら仕事に挑戦できることは、一つの選択肢になります。
一方、リラクゼーション業界には、すでに多くのお客様が存在します。
幸福堂が注目したのは、日本人女性セラピストによるオイルマッサージを、手頃な価格で受けたいというお客様の需要です。
そこでリラク幸福堂では、
「ホテルライクな上質空間 × お手頃価格」
というコンセプトを掲げています。
障害福祉事業と商業サロンが連携し、セラピストの育成や施設外就労による仕事の機会をつくりながら、お客様に選ばれるサロンを目指しています。
大切なのは、福祉事業だから利用していただくのではないということです。
お客様にとって魅力的なサービスを提供する。
そのサービスを実現する仕組みの中で、利用者の仕事を生み出していく。
オリジナルTシャツ事業もリラクゼーション事業も、基本的な考え方は同じです。
7.生産活動そのものが、利用者募集の強みになる
ここまでの話で、もう一つ重要なことがあります。
それは、生産活動の内容が、事業所を選ぶ理由になるということです。
例えば、利用者募集で、
「パソコン作業があります」
と伝えるのと、
「自宅のパソコンでPhotoshopを使い、オリジナルTシャツのデザイン制作に取り組めます」
と伝えるのでは、興味を持つ人が違います。
「イラスト制作ができます」という説明よりも、
「自分のタブレットを使い、在宅でイラストの仕事に挑戦できます」
と伝えたほうが、働く姿をイメージしやすくなります。
リラクゼーションでも、
「施設外就労があります」
という説明だけでは、仕事内容が伝わりません。
「美容やマッサージが好きな女性が、研修を受けながらセラピストの仕事に挑戦できます」
と伝えれば、興味のある方に届きやすくなります。
つまり、利用者募集を成功させるためには、広告の文章だけを工夫するのではなく、最初からターゲットとなる利用者が魅力を感じる生産活動を選ぶことが重要なのです。
もちろん、仕事内容だけでなく、工賃、勤務時間、在宅利用の可否、支援体制なども、事業所を選ぶ際の大切な条件になります。
生産活動と働き方を具体的に示すことで、利用を希望する方が、自分に合った事業所なのかを判断しやすくなります。
8.WEBマーケティングで、2つの需要を結びつける
幸福堂では、利用者募集と商品・サービスの集客の両方にWEBマーケティングを活用しています。
ただし、この2つはターゲットが違います。
利用者募集では、その仕事をやりたい人に情報を届けること。
商品・サービスの販売では、それを購入したいお客様に情報を届けること。
例えば、在宅でデザインの仕事をしたい方に向けては、仕事内容や働き方、必要な支援などを伝えます。
一方、オリジナルTシャツを購入したいお客様には、価格や注文方法、デザイン料無料といった魅力を伝えます。
リラクゼーションでも同様です。
セラピストになりたい利用者に向けた情報と、オイルマッサージを受けたいお客様に向けた情報は異なります。
この2つを混同してはいけません。
また、小規模なB型事業所が営業担当者を雇い、継続的に仕事を獲得することは簡単ではありません。
だからこそ幸福堂では、ホームページ・SNS・WEB広告などを活用し、ネット経由で仕事の注文や予約が入る仕組みを重視しています。
利用者を集めるマーケティングと、お客様を集めるマーケティング。
その両方を考えることが、B型事業所の仕事づくりと工賃向上につながると考えています。
9.他の事業所の成功例を真似するだけではうまくいかない
最近では、デザインや動画編集、オリジナルグッズ制作など、さまざまな生産活動に取り組むB型事業所があります。
他の事業所の成功例を参考にすることは、悪いことではありません。
しかし、同じ設備を導入し、同じ仕事内容を用意したからといって、同じ成果が得られるとは限りません。
なぜ、その事業を選んだのか。
どのような利用者を想定しているのか。
商品を購入するお客様は誰なのか。
自社の経営資源をどのように活かしているのか。
どのように集客し、継続的な売上を生み出しているのか。
こうした経営の仕組みまで理解しなければ、事業の見た目だけを真似しても、思うような成果にはつながりません。
事業所によって、職員の経験も、利用者の希望も、設備も、地域の環境も違います。
だからこそ、他の事業所と同じことをするのではなく、自分たちの経営資源を活かし、利用者とお客様の両方から選ばれる事業を考えることが大切なのです。
まとめ|利用者が集まる生産活動には理由がある
就労継続支援B型事業所が新しい生産活動を始めるとき、何を基準に仕事を選べばよいのでしょうか。
幸福堂では、まず次の問いから考えています。
「その仕事をやりたい利用者は、具体的にどんな人なのか?」
そして、その人たちは、どんな仕事内容や働き方を求めているのか。
そこを具体化したうえで、一般消費者の需要がある市場を選び、自社の経営資源を活かした事業づくりを行います。
利用者がやりたいと思う仕事であること。
お客様がお金を払って購入したい商品やサービスであること。
そして、事業所として継続的に提供できる仕組みがあること。
この3つが重要だと考えています。
生産活動は、利用者に作業を提供するためだけのものではありません。
利用者が「ここで働きたい」と思う理由であり、お客様が「ここで買いたい」と思う理由にもなるものです。
利用者の需要と、お客様の需要。
この2つを結びつけることが、利用者募集と工賃向上を両立させる仕事づくりにつながるのではないでしょうか。
これからも幸福堂では、利用者一人ひとりの希望や特性を大切にしながら、実際のお客様から必要とされる事業を育て、働く機会と工賃向上につなげていきたいと考えています。
デジタル工房幸福堂の仕事づくり
京都市の就労継続支援B型事業所「デジタル工房幸福堂」では、デザイン・イラスト・オリジナルTシャツ制作など、実際のお客様からの注文につながる仕事に取り組んでいます。
在宅でのデザイン・イラスト制作にも対応しており、利用者一人ひとりの希望や体調に合わせた働き方を支援しています。
仕事内容や見学については、公式ホームページをご覧ください。