
障害福祉とビジネスは両立できる?|就労継続支援B型事業所の経営と仕事づくり
2026年10月24日 12:48
就労継続支援B型事業所の経営には、一般的な会社とは異なる難しさがあります。
それは、小規模な法人でありながら、実質的に2つの事業を同時に運営しなければならないことです。
1つは「障害福祉サービス事業」。
もう1つは「生産活動事業」です。
この2つは、必要とされる専門性も、収入を生み出す仕組みも大きく異なります。
私は、就労継続支援B型事業所を運営するうえで、この2つをどう両立させるかが、経営の大きな課題だと考えています。
そして、これまでの事業経営を通じて、もう一つ重要だと感じていることがあります。
それは、生産活動で何をつくるかよりも、どの市場に参入し、どうすればお客様に選ばれるのかを考えることです。
今回は、幸福堂が実践してきた事業づくりを例に、B型事業所の経営と工賃向上について考えてみたいと思います。
1.障害福祉サービス事業と生産活動事業の違い
障害福祉サービス事業では、利用者一人ひとりの障害特性や体調、希望に応じた支援が求められます。
個別支援計画の作成、日々の支援記録、関係機関との連携、職員の育成など、専門的な知識と経験が必要です。
一方、生産活動事業では、一般の会社と同じように、商品やサービスをお客様に選んでいただく必要があります。
商品開発、営業、集客、価格設定、品質管理、納期管理など、こちらにはビジネスの専門性が求められます。
つまりB型事業所には、福祉事業者としての役割と、事業を経営する会社としての役割が同時に存在しているのです。
2.小規模な法人が2つの事業を担う難しさ
大きな会社であれば、営業部門、商品開発部門、経理部門など、それぞれ専門の担当者を配置できます。
しかし、多くのB型事業所は限られた職員数で運営しています。
利用者の支援を担当する職員が、仕事の受注や商品制作、販売管理まで担っているケースもあるでしょう。
福祉支援に力を入れると、営業や商品開発に時間を割けない。
反対に、売上を増やそうとすると、職員の負担が大きくなってしまう。
このような悩みは、職員の努力だけで解決できる問題ではありません。
そもそも、性質の異なる2つの事業を少人数で運営すること自体に難しさがあるのです。
だからこそ、職員の頑張りに頼るだけではなく、少人数でも継続的に売上が生まれる事業の仕組みをつくることが重要になります。
3.福祉サービスの収入と生産活動の売上は別のもの
ここで大切なのが、2つの事業の収入を分けて考えることです。
障害福祉サービスの収入は、利用者に必要な支援を提供し、事業所を運営するためのものです。
一方、利用者に支払う工賃は、原則として生産活動で得た収入から必要経費を差し引いた金額が原資となります。
つまり、福祉サービスの収入が安定していても、それだけで利用者の工賃を高くできるわけではありません。
工賃を上げるためには、生産活動そのものの売上や収支を改善する必要があります。
福祉サービスの経営が安定することと、生産活動の売上が伸びることは、別々の課題なのです。
また、福祉事業と生産活動では、必要な経費の性質も異なります。
そのため、事業に必要な施設・設備、人材育成、運営支援などの役割を整理し、それぞれの事業に必要な費用を適切に区分することも欠かせません。
経営の仕組みを考えることと、福祉事業の適正な運営は、両立させるべきものだと考えています。
4.生産活動にはビジネスの視点が必要
工賃向上を考えるとき、作業の種類や量を増やすことに目が向きがちです。
しかし、仕事がたくさんあっても、単価が低ければ十分な工賃原資を確保することは難しくなります。
重要なのは、継続的にお客様から選ばれる商品やサービスをつくることです。
例えば、オリジナルTシャツの制作であれば、デザインや印刷の技術だけでなく、販売先を見つけ、注文をいただく仕組みが必要です。
リラクゼーション事業であれば、施術技術の習得だけでなく、お客様に来店していただくための集客や店舗運営が欠かせません。
どちらも、技術を身につけただけでは仕事になりません。
お客様に選ばれて、初めて継続的な仕事につながります。
「利用者に何の作業をしてもらうか」だけでなく、「その商品やサービスを誰が、なぜ購入するのか」まで考える。
これが生産活動を一つの事業として育てるための出発点だと思います。
5.事業を始める前に、参入する市場を見極める
幸福堂が事業づくりで重視しているのは、市場選びです。
私たちは、BtoC(一般消費者向け)で市場規模が大きく、上場企業なども参入している、すでに需要が確立された業界に注目してきました。
ただし、市場が大きければ、どこに参入しても成功するという意味ではありません。
重要なのは、その市場で何が変わろうとしているのかを見極めることです。
特に、大手企業が新しい商品やサービスに投資するときには、その背景にある技術革新や消費者ニーズの変化に注目します。
これまで難しかったことが、新しい技術によって可能になる。
従来の価格では購入しなかった人が、手頃な価格なら購入するようになる。
こうした変化によって、成熟した業界の中にも新しい需要が生まれます。
新しい仕事を一から考え、需要があるかどうかを試す方法もあります。
しかし、小規模なB型事業所が限られた経営資源で事業を始めるなら、すでにお客様が存在する市場の中から、新たな商機を見つけるほうが現実的な場合があります。
大きな市場で、すべての競合に勝つ必要はありません。
その市場の中で、自分たちの商品やサービスを必要とするお客様を獲得できれば、事業は成立する可能性があります。
6.自社の経営資源を、競争上の強みに変える
市場を選んだら、次に考えるのは自社の経営資源です。
経営資源というと、資金や設備を思い浮かべるかもしれません。
しかし、職員の経験、利用者が持つ技術、研修体制、販売ノウハウ、顧客との関係なども重要な経営資源です。
そして、経営資源を持っていることと、それが競争上の強みになることは同じではありません。
例えば、デザイナーが在籍しているだけでは、オリジナルTシャツの注文が増えるとは限りません。
そのデザイナーの力を使って、競合には提供しにくいサービスを実現し、お客様に選ばれる理由をつくることが重要です。
幸福堂では、在宅でデザインに取り組む利用者が約20人います。
この体制を活かして取り組んできたのが、1枚から注文できるオリジナルTシャツ制作です。
初めてオリジナルTシャツを注文するお客様の中には、デザインソフトを使えない方や、印刷用のデータを用意できない方もいます。
そこで幸福堂では、LINEで画像を送るだけで、デザイン料無料で1枚から制作できるというサービスを提供しています。
お客様にとっては、専門知識がなくても気軽に注文できることが魅力です。
一方、幸福堂にとっては、デザイン制作の注文が利用者の仕事につながります。
つまり、お客様が求めているサービスと、事業所が確保したい仕事が一致しているのです。
一般の印刷会社では負担になりやすい1枚ごとのデザイン対応も、幸福堂では利用者の仕事づくりと結びつけて考えることができます。
経営資源を活かすとは、自社の都合で仕事をつくることではありません。お客様の困りごとを解決できる、自社ならではの強みを生み出すことなのです。
7.リラクゼーション事業でも、同じ考え方を実践
幸福堂グループが取り組むリラクゼーション事業にも、同じ考え方があります。
リラクゼーション業界には、すでに大きな市場があり、競争も激しくなっています。
その中で幸福堂が注目したのは、セラピストの人材確保と施術料金の関係です。
セラピストの採用や育成には費用と時間がかかります。
人件費などの運営コストが上昇すれば、サロンは施術料金への転嫁を検討しなければなりません。
一方で、お客様の中には、日本人女性セラピストによるオイルマッサージを、手頃な価格で受けたいと考える方もいます。
そこでリラク幸福堂が掲げたコンセプトが、
「ホテルライクな上質空間 × お手頃価格」
です。
高級感のある空間で、気軽にオイルマッサージを受けられるサロンを目指しています。
これを実現するために、幸福堂ではB型事業所と商業サロンの連携による独自の運営体制を構築しています。
利用者への施術研修や仕事の提供だけでなく、施設・設備の活用、運営ノウハウの提供など、それぞれの役割を整理することで、一般のサロンとは異なる事業モデルをつくっています。
もちろん、利用者への適切な支援や工賃、必要な契約・会計処理を前提とした仕組みです。
ここで大切なのは、お客様に障害福祉の仕組みを理解していただくことが、購入の条件ではないということです。
お客様が求めているのは、魅力的な空間、満足できる施術、納得できる価格です。
お客様には選ばれるサービスを提供し、そのサービスを支える仕組みの中で、利用者の働く機会をつくる。
これが幸福堂の考える、福祉とビジネスを両立させる事業づくりです。
8.営業担当者がいなくても売れる仕組みをつくる
市場を選び、競争上の強みをつくったとしても、お客様に知っていただかなければ売上にはつながりません。
ここで重要になるのがWEBマーケティングです。
小規模なB型事業所が営業担当者を雇い、訪問営業や電話営業によって継続的に仕事を獲得することは容易ではありません。
そこで幸福堂では、ホームページ・SNS・WEB広告を活用し、ネット経由でお客様を獲得する仕組みを重視しています。
ただし、ホームページをつくっただけで注文が入るわけではありません。
大切なのは、購入したいと思っているお客様がどこにいて、何を求めているのかを理解することです。
例えば、オリジナルTシャツを初めて注文する方にとっては、デザインの難しさや価格への不安が、購入をためらう理由になります。
そこで「画像をLINEで送るだけ」「デザイン料無料」「1枚から制作可能」と伝えれば、注文するまでの心理的な負担を減らせます。
リラクゼーションでも同様です。
新しいサロンを試すことに不安を感じるお客様には、店内の写真や施術内容、料金を分かりやすく伝える。
さらに、新人セラピスト応援モニターのような企画を設けることで、初めて利用するきっかけをつくることもできます。
ここで大切なのは、安さだけを訴求しないことです。
なぜ、その価格で提供できるのか。
その理由が伝われば、お客様は安心してサービスを検討できます。
そして実際に利用して満足していただければ、再購入や再来店につながる可能性が高まります。
WEBマーケティングとは、単に広告を出してアクセスを増やすことではありません。
お客様が自分から「買いたい」「予約したい」と思える商品・サービスと、その購入までの流れをつくることだと考えています。
9.成功した事業の形だけを真似しても、うまくいかない理由
近年、オリジナルグッズ制作やデザイン業務に取り組むB型事業所も増えています。
しかし、同じ設備を導入し、似たような商品をつくれば、同じ成果が得られるとは限りません。
なぜなら、商品や設備は、事業の一部分にすぎないからです。
市場の需要をどう判断したのか。
どのようなお客様を対象にしたのか。
自社の経営資源をどう活かしたのか。
なぜ、その商品や価格が競合との違いになるのか。
そして、どのようにお客様を集め、購入につなげるのか。
これらがつながって、初めて一つのビジネスとして成立します。
幸福堂でも、オリジナルTシャツ事業を始めた当初から、現在と同じ規模の仕事があったわけではありません。
事業を続ける中で、集客方法、商品の見せ方、受注対応、生産体制などを改善してきました。
その経験の積み重ねが、現在の経営資源になっています。
他社の成功事例から学ぶことは大切です。しかし、真似するべきなのは見た目の事業内容ではなく、なぜその事業が成り立っているのかという考え方です。
自社の経営資源が違えば、選ぶべき市場も、強みにできるサービスも違うはずです。
10.福祉とビジネスは対立するものではない
私は、障害福祉とビジネスは対立するものではないと考えています。
利用者の体調や障害特性を無視して売上だけを追求することは、適切な福祉支援ではありません。
一方で、利用者への支援を大切にすることと、商品やサービスの品質を高めることは矛盾しません。
利用者が自分に合った仕事に取り組み、技術を身につける。
その技術がお客様に評価され、商品やサービスが売れる。
売上が生まれることで、新たな仕事や工賃向上につながる。
そして、仕事が増えることで、さらに技術や経験を積む機会が生まれます。
この循環をつくることが、就労継続支援B型における生産活動の大切な役割だと考えています。
福祉だから売上を考えなくてよいわけでも、ビジネスだから利用者への配慮を後回しにしてよいわけでもありません。
利用者への適切な支援と、お客様に選ばれる事業づくり。その両方を実現することが、B型事業所の経営には求められています。
11.幸福堂が目指していること
京都市の就労継続支援B型事業所「デジタル工房幸福堂」では、デザインやイラスト、オリジナルTシャツ制作など、実際のお客様に商品を届ける事業づくりに取り組んできました。
また、幸福堂グループではリラクゼーション事業にも取り組み、施設外就労を活用した新しい仕事の機会をつくっています。
オリジナルTシャツ事業とリラクゼーション事業は、まったく異なる業界です。
しかし、事業づくりの考え方には共通するものがあります。
すでに需要が存在する市場を見極めること。
市場の変化から新しい商機を発見すること。
自社の経営資源を活かして、他社とは違う価値を提供すること。
WEBマーケティングによって、お客様が自ら購入・予約してくださる仕組みをつくること。
そして、その事業を通じて利用者の仕事と工賃を増やしていくことです。
私たちは、利用者のために仕事を用意するだけでなく、お客様から必要とされる事業を育てることが、結果として利用者の働く機会を増やすと考えています。
まとめ|2つの事業をどう両立させるか
就労継続支援B型事業所の経営が難しい理由の一つは、小規模な法人が「障害福祉サービス事業」と「生産活動事業」という2つの異なる事業を担っていることです。
だからこそ、福祉支援の充実だけでなく、生産活動を一つの事業として育てる視点が欠かせません。
そのために、幸福堂が重視しているのは、次の考え方です。
需要が確立された市場を選び、市場の変化を読み、自社の経営資源を活かして競争上の強みをつくる。
そして、営業担当者に頼らず、ホームページ・SNS・WEB広告などのWEBマーケティングを活用して、継続的にお客様を獲得する。
その売上を利用者の仕事と工賃向上につなげていく。
生産活動で何をつくるかも大切ですが、それ以上に重要なのは、なぜお客様がその商品やサービスを買うのか、そして、なぜ自分たちの事業所がお客様に選ばれるのかを考えることです。
仕事がないから新しい作業を探すのではなく、お客様の需要から仕事を生み出す。
その仕事を通じて、利用者が技術を身につけ、収入を得られる環境をつくる。
福祉の専門性とビジネスの専門性を組み合わせること。
それが、私たち幸福堂の考える、障害福祉とビジネスを両立させる経営のあり方です。
就労継続支援B型の新しい仕事づくり
幸福堂グループでは、リラクゼーション事業を活用した施設外就労の共同運営モデル「リラク幸福堂FC」に取り組んでいます。
株式会社舞新堂が施設外就労先となるサロンを運営し、パートナー事業所と連携して、利用者の働く機会と工賃向上を目指す仕組みです。
これまで培ってきたサロン運営、セラピスト育成、WEBマーケティングなどのノウハウを活かし、B型事業所の新たな生産活動づくりを支援しています。
詳しくはこちらをご覧ください。